FreeBSD による PPP 接続方法

本稿では、FreeBSD と PPP に関する簡単な基礎知識と、 FreeBSD による姫路工大アクセスサーバ への PPP 接続に関する設定方法等について紹介する。
【5. モバイルコンピューティングへの御招待】

据置型パソコンへの FreeBSD 導入もさることながら、 やはり醍醐味は、ノート〜サブノートパソコンでの FreeBSD や Linux に よるモバイルコンピューティングであろう。 パソコンの性能向上が著しい今日、 ノート型パソコンも比較的安価で高性能のもの が手に入るようになり、 また、このところの携帯通信機器の進歩・爆発的普及も相俟って、 数年前には夢であった「出先でも日常と同じ UNIX 環境で仕事」 や「出先から PHS (Personal Handy-Phone System)・携帯電話でアクセス」も、 充分手が届く情勢である。

無論これまでにも 「``パームトップパソコン''によるインターネット」という謳い文句もしばしば 目にしたが、 IBM Palm Top・Hewlett Packard HP 200LX・東芝 Libretto などの一部の 本格的パームトップマシンを除いては、 まだまだ``高級電子手帳''の域を脱しきっていないものも多い。 やはり、異なるプラットホーム間での双方向データ交換が可能になってはじめて、 『ネットワークの一員としての``モバイルコンピューティング''』が可能になると 言えるであろう。


FreeBSD でのモバイルコンピューティングと PAO

さて FreeBSD でのモバイルコンピューティング環境構築について、話をすすめよう。 まず電源面であるが、 FreeBSD には、APM (Advanced Power Management) BIOS ドライバ が組み込まれている。 またデバイスドライバ面であるが、ノートパソコンで入出力デバイスとして 標準的に用いられる PCMCIAカード (PC カード)が使用可能である。 しかし現状の 2.1.6.1R レベルでも、例えばPCMCIAカードは 数種類しか認識出来ない・ 1度抜くと reboot して再認識させる必要がある…などと、 残念ながらまだ充分とは言い難い。 そこで、ラップトップパソコン環境を充分に整備するためには、 このAPMの拡張及びPCMCIAカード ドライバの総合的パッケージ である PAO導入すればよい。 これにより、PCMCIA Ethernet カード・FAX/modem カード・ ISDN カード・SCSI カード・Flash ATA カード…の数多くが使用可能となり、 また resume & suspend の際のこれらのデバイスの処理周りが大きく改善 される。 使用可能になる PCMCIA カードや設定方法など、 詳しくは PAO のドキュメントなどを参照して欲しい [12, 13]。 尚、この PAO は FreeBSD 2.2 以降、OS に標準組込される予定である。


携帯用ノート型パソコン

実際に携帯するノートパソコンの理想としては、重さ2kg以下・ 海外使用も考慮するなら電源アダプタが ユニバーサルタイプ (100〜240V対応) であること・ 内蔵バッテリで 5〜6 時間は駆動・打ちやすいキーボード・ 800Mbyte 以上のディスク・AMD5x86-P75 or Pentium 100 程度以上の処理能力… などがあるが、なかなかこれらの条件をクリアする決定的なマシンは未だない。 日に日に状況は変化する日進月歩の技術革新の世界ではあるが、 現時点でのお勧めモデルはいくつかある。 FreeBSD や Linux でのモバイルコンピューティングによく使用されている マシンとしては、 IBM ThinkPad 535 や DEC HiNote Ultra などがあげられる。

DEC Hinote Ultra
[写真2] DEC Hinote Ultra (2.2-960801-SNAP+PAO-960907)
X11R6 + mule + TEX で本稿作成中

携帯用モデム

RS-232C や RS-422 のシリアルポート経由で 箱型外付けモデムを携帯するのでは、 コネクタケーブルが必要になる上に モデム自体も大きく嵩張り、 なによりも電源の心配をする必要が生じる。 そこで携帯用としては、 名刺サイズの PCMCIAカードモデム (通常TYPE II) の使用をお勧めする。 中でも、専用のコネクタ を必要とせず、本体から直接モジュラージャックがポップアップする USRobotics 社の Megahertz X-Jack シリーズ (写真3, 4)が 携帯に便利である。

DEC Hinote Ultra
[写真3] PCMCIA カード
上, 中: モデムカード (Megahertz X-Jack)
下: イーサネットカード (3Com EtherLink III)
DEC Hinote Ultra
[写真4] X-Jack モデムを Hinote Ultra の
PCMCIA スロットに差した様子

電話

あとはこれに モジュラーケーブルさえあれば、 家庭などの電話端子口 (モジュラージャック)・ 街頭からならグレーのISDN (Integrated Services Digital Network) 公衆電話から TTY 接続もしくは PPP 接続することが可能である (写真6)。

まきとり君
[写真5] ``まきとり君''

ISDN 公衆電話の端子口
[写真6] ISDN 公衆電話の端子口

ISDN 公衆電話との接続
[写真7] ISDN 公衆電話との接続


これに加えて特に最近注目されているのは、 1995年7月の開始以来、爆発的に普及してきた PHS と、 最近料金値下などの価格競争の激しい携帯電話を利用しての ``ワイヤレスアクセス''である。 これにより出先からでも、より「場所を選ばず」にアクセスすることが可能となった。
デジタル携帯電話にはデジタルデータ/ FAX 通信カードが用意されているので、 これのケーブルを電話器の専用コネクタに差し込んで接続、 アナログ携帯電話や現状の PHS では、 市販のセルラージャック接続ケーブル (写真8) を用いて、 モデムと電話器のイヤホンマイク端子とを接続 (写真9) して 使用する

セルラージャック接続ケーブル
[写真8] セルラージャック接続ケーブル
PHS との接続
[写真9] PHS との接続

ただ、これら移動通信体は、
  1. 通信安定性・使用可能圏
    ワイヤレスアクセスを行なうには、充分な電波強度を確保する必要がある。 電波状況に通信の安定性が大きく左右され、不安定になることもある。 また利用できる範囲は、端末出力の大きさや中継基地局の配置数などにより、 携帯電話・PHS 共にそれぞれ (現時点では) 制約がある。
  2. 通信速度
    通常電話回線での有線アクセスでは 28800bps が標準 (モデムの性能に依る) 的なのに 対し、現状のアナログ携帯電話やPHSでは、 最大でも 9600bps (実際には 4800bps 程度であることも多い) である。
    (但し、PHS のデータ通信対応速度は将来 32kbps になる予定である)
  3. 通話料金
    PHS は安いが、携帯電話はまだまだ高い…。
などの面で、 まだまだ色々な制約がある。 しかしこれらに対しては、改善すべく色々と研究・開発されている。 例えば、専用コミュニケーションカードと対応端末を用いる ``α-DATA''PHSも導入されているが、 安定とはいうものの現時点のカードでは最大速度が 14400bps である。 但し、今春には PHS 本来の 32kbps 通信を可能にするコミュニケーションカードが 発売予定である。

アクセスポイント

今回は姫路工大アクセスサーバへの PPP 接続に関してであったが、 実際に外出先からのネットワークアクセスには、電話料金を考慮すると、 出来るだけその近くに何らかのアクセスするポイントを持つべきであろう。 例えば全国規模のプロバイダにアカウントを有しておれば、 最も近傍のアクセスポイントにPPP接続して…という 使用方法もある訳である。 例えばパソコン通信大手の NIFTY-Serve、PC-VAN や ASAHIネット、 ASCIInet、MSNなどがPPP接続口を設けている。 但しこれらを利用する際には、接続時間等に応じた課金が行なわれるので、 電話料金と課金をよく考慮すべきである。



この様にモバイルコンピューティングによって、 出先からでも PPP 接続で LAN 上とほとんど同じネットワーク環境の構築が可能で、 いつでも、どこからでも全世界の``情報''にアクセスが出来るようになる。 残念ながら今日最大の問題点は、有線アクセスですらLAN上に比べて データ転送レートが桁違いに低いことであろう。 データ転送速度に関しては、ISDN の TA (Terminal Adaptor, ISDN端末アダプタ。 同期 64kbps) 使用によって劇的に改善されるが、まだまだ問題点もある。 これら通信速度の向上・移動通信体の改善をはじめとする ``モバイルコンピューティング''を支えるハードウェア環境には、 まだまだ技術革新の余地があり、秒進分歩:-)する可能性があるので 今後に期待したい。


© Haruhisa Hayashi 1997
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by はやし はるひさ hayashi あっとまーく laic.u-hyogo.学術.日本